金沢工業大学
先端電子技術応用研究所
委員名:足立 善昭

研究概要

当研究所では,超伝導量子干渉素子(SQUID)を基軸とした高感度磁気センサとその応用技術の開発に取り組んでいます。SQUIDはリング状の超伝導体の一部にジョセフソン接合と呼ばれる超伝導の弱い部分を作り込んだ構造をしており、リングを貫通する磁束を打ち消すようにリング内に流れる遮蔽電流を、接合部両端に現れる電圧として検知することで、実用化されている磁気センサの中では最も高い磁場分解能を実現できるものです。半導体デバイスの成膜技術と同様の手法により量産が可能で、医療、生命科学、地球物理学をはじめ、さまざまな微弱磁気計測の分野に応用されています。当研究所では、それぞれの応用に適した独自設計のSQUIDチップの開発から、磁気センサ、極低温系、駆動電子回路やデータ収録系、ソフトウェアまで一気通貫で磁気計測システムの開発を行なってきました。また、磁気計測システムの校正や評価法、微弱磁気計測の妨害となる磁気ノイズ低減や、磁場源解析アルゴリズムの研究も行なっています。

1生体磁気計測システム

生体磁気計測システムは筋肉や神経などの生体の電気的活動に伴って発生する微弱な磁場を多数のSQUIDで検出し、体表面で観測される数pTから数fTの磁場分布の変化から生体の機能情報を非侵襲的に得るものです。当研究所で開発した脳磁計は民間企業に技術移転され、脳機能を調べる医療機器として病院に導入されているほか、他の大学や研究機関と共同で、小児用の脳磁計や動物実験用の脳磁計など、目的に応じてカスタマイズされた脳磁計の開発も行なってきました。現在は脳磁計の校正や評価法などの研究や、脊髄や末梢神経などの脳以外の神経活動を検査する脊磁計の開発に取り組んでいます。

全頭型脳磁計センサアレイ
全頭型脳磁計センサアレイ

2高感度地磁気連続観測システム

SQUIDの低周波領域における高感度、低ノイズの特性を活かした地磁気計測システム(Extremely Low Frequency Antenna: ELFA)を開発し、地磁気変化の精密な長期連続観測を継続的に行なっています。これまでにシューマン共鳴や電離層アルフベン共鳴など、地球規模で伝搬する特異な低周波の地磁気変動成分を石川県内の2箇所で同時観測することができました。また、地殻変動に伴う10 Hz以下の超低周波領域の地磁気変動の観測、分析に取り組んでいます。

3走査型SQUID磁気計測システム

岩石や堆積物などの地質サンプルの磁気イメージングを行うことで、サンプルに記録された過去の地磁気の変動(古地磁気)を数100万年単位で知ることができます。薄片に加工された地質サンプルに適用できる専用のSQUIDを設計、開発し、他の研究機関と共同で、0.1 mmの分解能で磁気分布を記録できる走査型SQUID顕微鏡を製作しました。また、南極の氷床サンプルの磁気の検出や、青銅鏡などの考古学的文化財の非破壊検査など、用途に応じた様々な走査型SQUID磁気計測システムを開発してきました。

4超低磁場磁気共鳴イメージング

脳磁計や脊磁計などの生体磁気計測システムで得られる機能情報は、磁気共鳴イメージング(MRI)などで得られる解剖学的構造を示す画像と重ね合わせることで、診断に有用な情報となります。そこで、生体磁気計測システムとMRIが一体化された装置を目指して、超低磁場磁気共鳴イメージングの研究を進めています。核磁気共鳴信号の周波数はラーモア周波数と呼ばれ、背景磁場強度の低下に応じて低下し、例えば一般病院のMRIの1/1000以下の1 mTの背景磁場では、医療画像用途で対象となる水素原子のラーモア周波数は42.58 kHzとなります。そのような低い周波数の電磁波の検出にはSQUIDが適しており、当研究所では、専用のSQUIDセンサや駆動回路、磁場印加用の特殊なコイル、制御ソフトウェアなどの設計、開発を行ってきました。