近畿大学
生物理工学部医用工学科 薄膜物性工学グループ
委員名:西川博昭

研究概要

当研究室では銅酸化物超伝導体のエピタキシャル薄膜を用い,電場や磁場などの外場を強誘電体や強磁性体で検出し,これを超伝導の無損失性を利用して高感度化した新規な超伝導センサデバイスを開発すること,あるいは超伝導の無損失線路特性を微小な電場や磁場で動的に制御可能なダイナミック超伝導デバイスの実現を目指しています.さらにわずかな空間でもこれらのデバイスを実装可能なよう,銅酸化物超伝導体や類似の結晶構造を有する強誘電体・強磁性体のエピタキシャル薄膜をフレキシブルなプラスチックシートに形成する作製プロセス開拓に取り組んでいます.これにより,超伝導デバイスの応用範囲拡大を進めます.

1超伝導静磁波デバイスの開発

静磁波とは強磁性体に静磁場とマイクロ波を重ね合わせて印加した際に発生する磁化の歳差運動であり,強磁性体表面を磁化の波動として伝搬します.静磁場の大きさによって伝搬する静磁波の波長,すなわちマイクロ波周波数が変化するため,磁気センサとしても磁場制御型超伝導伝送線路としても応用可能です.強磁性体 Pr ,Ca)MnO3 (PCMO) エピタキシャル薄膜にYBa2Cu3O7 -・( エピタキシャル薄膜のコプレーナ線路を積層し, 70 Oe および 320 Oe の静磁場を印加して YBCO コプレーナ線路の挿入損失 S21 を測定した結果が図 1 です.遮断周波数を 2.2 GHz から 3.1 GHz へ大きく制御することに成功しています.

YBCO/PCMO積層構造からなる超伝導静磁波デバイスにおける YBCO コプレーナ線路の挿入損失が示す静磁場依存性
YBCO/PCMO積層構造からなる超伝導静磁波デバイスにおける YBCO コプレーナ線路の挿入損失が示す静磁場依存性

2ペロブスカイト型酸化物のエピタキシャル薄膜を
フレキシブルなプラスチックシートに形成するプロセス

(a)フレキシブルなポリイミドシートに転写した PZT エピタキシャル薄膜の概観。
                                                                    (b) (a)で示した試料の P E ヒステリシス曲線。
(a)フレキシブルなポリイミドシートに転写した PZT エピタキシャル薄膜の概観。
(b) (a)で示した試料の P E ヒステリシス曲線。

銅酸化物超伝導体や類似の結晶構造を持つペロブスカイト型強誘電体・強磁性体は,作製プロセスとして 500 C 程度を超える高温による結晶化を必要とします.これは,わずかな空間でもデバイス実装が可能なフレキシブルなプラスチックシート上へこれらの機能性材料を形成することが困難なことを意味します.そこで当研究室では,ペロブスカイト型 SrTiO3 (STO) 単結晶基板にエピタキシャル成長する水溶性Sr3Al2O6 (SAO) をバッファとして強誘電体 Pb(Zr,Ti )O3 ( 薄膜をエピタキシャル成長させ,ポリイミドシートを接着したのちに浸水することで SAO を溶解し,PZT エピタキシャル薄膜をポリイミドシートに転写することに成功しています.図 2(a) はポリイミドシートに転写した PZTエピタキシャル薄膜の概観、 ( はその P E ヒステリシス曲線で,転写後も強誘電特性を示しています. YBCO や PCMO のエピタキシャル薄膜にもこのプロセスを応用し,銅酸化物超伝導体のエピタキシャル薄膜からなるフレキシブルデバイスを開発します.