名古屋大学
大学院工学研究科電子工学専攻 量子集積デバイスシステムグループ
委員名:藤巻朗、田中雅光

研究概要

当研究室では,超伝導を利用し,従来の半導体では実現不可能な,超高速・超低消費電力エレクトロニクスを創成します.特に世界に先駆け確立した磁性πジョセフソン接合(π接合)集積回路プロセスを利用して,物理極限に迫る低エネルギー情報処理回路を実現し,ポストムーア時代を支える高効率超高速スーパーコンピュータを目指します.さらに,そのスーパーコンピュータと量子コンピュータを1つのシステムとして実現することにも取り組み,世界最高速のコンピュータの基盤技術の研究を進めます.

1単一磁束量子回路による超高速・超低消費電力情報処理

単⼀磁束量子(SFQ)回路は,超伝導ループ内で量子化された磁束の有無を‘1’と‘0’に対応させて演算を行うディジタル回路で,数十GHzから100 GHz以上の高速動作性と,従来の半導体デバイスに⽐べて3桁以上小さな低消費電力性が魅力的な次世代集積回路技術です.これまで,⼤規模SFQ回路のための設計・実証基盤技術の確立を他の研究機関と協力して進めてきました.図2はメモリを搭載した8ビットSFQマイクロプロセッサです.設計した回路は産業技術総合研究所で試作されています.このプロセッサでは、メモリに内蔵されたプログラムを50GHzで実行することに成功しました.最近では,更なるSFQ回路の低消費電力化に関する研究を進めており,物理的な極限に迫る究極の情報処理回路を目指しています.

次世代スーパーコンピュータに向けて試作した超伝導集積回路チップ
次世代スーパーコンピュータに向けて試作した超伝導集積回路チップ

2π接合を用いた新奇量子デバイスとその応用

π接合を利用した超伝導⼤容量メモリ
π接合を利用した超伝導⼤容量メモリ

超伝導は,ミクロの世界でしか出現しない量子現象が,巨視的なスケールで現れる効果です.したがって,電子の波としての効果,すなわち波の重ね合わせとして理解される量子化や干渉が電子デバイスに活用できます.前述のSFQ回路も量子化を利用した例ですが,最近になって1つの素子の中で波動関数の位相がπだけずれるπ接合が発見され,応用の可能性が飛躍的に拡⼤しました.本研究室では,量子化現象とπシフトを利用した回路が,真性負性インダクタンスや巨⼤インダクタンス,断熱的スイッチングといった新奇物理現象を生み出すことを発見しました.現在はこれら新奇量子デバイスを利用して,超高速⼤容量メモリ(図3)や超伝導量子ビットの制御、熱ゆらぎや量子ゆらぎといった物理極限近傍での超高エネルギー効率コンピューティングシステムを研究しています。