埼玉大学
大学院理工学研究科数理電子情報部門
明連・成瀬研究室、田井野研究室

委員名:明連広昭

研究概要

当研究室では、主に赤外から放射線にいたる光子検出器、サブミリ波、テラヘルツTHz )波などの高感度検出器などの超伝導検出器、センサーの研究を行っている。さらに単一磁束量子論理を駆使した信号処理回路により光子検出器のアレイ化、光子数検出器への拡張、高感度検出器のイメージングアレイ化、デジタル SQUID 磁束計の設計・試作などに取り組んでいる。一部の研究は、理化学研究所や産業技術総合研究所など国内外の研究機関との共同研究により進めている。

1単一磁束量子回路による信号処理回

単一磁束量子(SFQ )論理回路による信号処理回路は、その超高速クロック動作と低消費電力動作に特長があり、次世代のプロセッサやデジタル信号処理回路として研究が行われている。
明連・成瀬研究室では、極低温で動作する超伝導検出器やセンサーの信号読み出し・信号処理回路として SFQ 論理回路を用いる研究を行っている。また、サブ磁束量子の高速フィードバック回路を備えたデジタル SQUID 磁束計では、従来の SQUID 磁束計の高感度を維持しつつスルーレイトを mT /s オーダーから数 T/s オーダーへと 3桁以上の性能向上をもたらし、その応用研究が期待される。
さらに、これまでのSFQ 論理回路の設計技術を応用してトポロジカル量子ビットの組紐操作制御回路の研究に着手したところである。トポロジカル量子ビットはノイズ耐性が高く電流パルスによる組紐操作による量子ゲート操作が可能なため、 SFQ 論理回路と組み合わせた大規模な量子コンピュータ実現が期待されている。

単一磁束量子回路による信号処理回

2超伝導検出器とその応用

超伝導ナノワイヤ単一光子検出器

超伝導ナノワイヤー単一光子検出器(SNSPD)は、GS/sの単一光子検出器として研究が行われており、量子情報通信分野の光ファイバーによる量子インターネットへの応用が期待されている。SNSPDをアレイ化することにより光子数検出器が実現できることが示されているが、単一磁束量子論理(SFQ)回路による読み出し回路により、より高速でタイミングジッタの少ない読み出しが可能となる。明連・成瀬研究室では、このSNSPDアレイ光子数検出器の読み出し回路にSFQ論理回路を適用し、さらにオンチップでSFQパルス電圧を増幅する回路を結合することにより高速読み出し可能な光子数検出器を提案し、研究を行っている。

マイクロ波力学インダクタンス検出器(MKID)

MKIDは、高感度かつイメージングアレイに適した超伝導検出器として提案された。MKIDを用いた宇宙マイクロ波背景放射(CMB)観測用イメージングアレイに関する研究では田井野准教授と成瀬助教がプロジェクトに参画しており、研究成果が得られている。さらに、MKIDの高感度性を活かして、サブミリ波帯だけでなく、遠赤外線領域での光子数検出器および高エネルギー物理実験への応用研究を進めている。写真は研究室で作製した二重ベータ崩壊観測用鉛吸収体付きAl-MKIDアレイの写真と東北大ニュートリノ科学研究センターで測定した60 keVガンマ線信号である。

超伝導トンネル接合素子

超伝導トンネル接合(STJ)素子では、meVのエネルギーギャップを持つ超伝導体を用いることにより高分解能な検出器が実現できる。STJ素子は検出器動作時にトンネル接合に磁場を印加して超伝導電流を抑制する必要がある。必要な外部磁場を小さくしたり、オンチップで超伝導永久電流で発生させる目的で、正規分布形状やオンチップコイル集積化STJ素子を提案した。また、基板にTHz波を吸収する基板や中性子の吸収断面積の大きな基板を用いることによりSTJ素子によるTHz波検出器や中性子検出器に関する応用研究を進めている。さらに、最近では軟X線領域のアレイ型STJ検出器の実用化を目指して重金属のアパーチャーや検出器下の基板を除去したメンブレン型の素子構造の研究を行っている。

二重ベータ崩壊探索用鉛吸収体付きAl-MKIDとガンマ線によるパルス信号
二重ベータ崩壊探索用鉛吸収体付きAl-MKIDとガンマ線によるパルス信号