(国研)産業技術総合研究所
物理計測標準研究部門
量子電気標準研究グループ/応用電気標準研究グループ

委員名:金子晋久

研究概要

当研究グループでは,ジョセフソン効果を利用した電圧標準をはじめ,直流低周波領域における電気計測の測定精度を支えるための計量標準の維持管理や,関連した研究開発を行っています.電気抵抗の基準としては,量子ホール効果を利用した抵抗標準の維持管理や超高抵抗を実現するためのアレイ素子開発などに取り組んでいるほか,近年では,超伝導ターンスタイル素子や半導体量子ドットを利用した単一電子トンネリング素子による量子電流標準の開発評価を通じて微小電流計測の高精度化にも取り組んでいます.また,産業基盤として重要なインピーダンスや電力の標準供給に加え,ジョセフソン電圧標準を応用した交流電圧標準の開発や,超伝導転移端センサ(TES)を利用した交直変換標準の高度化などにも取り組んでいます.さらに最近では,表面弾性波デバイスによる単一電子移送実験や量子コンピュータ素子制御に向けた研究なども行っています.これらの研究を通して,量子電気標準の普遍性を生かした究極の測定精度の追求はもとより,小型システム開発による産業界への普及や,単一電子操作技術や精密電気計測技術に基づいた量子物理学や量子コンピュータ開発への貢献を目指します.

1量子現象を利用した電圧および抵抗標準の開発と応用

ジョセフソン効果は超伝導体接合で生じるクーパー対のトンネル現象に起因した量子現象です.ジョセフソン素子にマイクロ波を照射すると,電流―電圧特性上にシャピロステップと呼ばれる定電圧ステップが現れ,これを利用して直流電圧の国家計量標準が実現されています.近年では,交流電圧標準や微小電圧標準への応用,小型空冷システム開発による産業界への技術移転,希釈冷凍機中で利用可能な基準電圧源の開発などに取り組んでいます.一方,量子ホール効果は二次元電子系においてホール抵抗値が量子化される現象で,これを利用して直流抵抗の国家計量標準が実現されています.得られる量子化抵抗値を通常の約12.9 kΩから1 MΩなどに拡張するためのアレイ素子化や,高抵抗の精密測定技術を利用した微小電流計測手法の開発,トポロジカル絶縁体で生じる量子異常ホール効果を利用した強磁場を必要としない小型システムの開発などにも取り組んでいます.

量子効果を利用して実現される電気標準
量子効果を利用して実現される電気標準

2量子電流標準の開発と量子デバイス制御への応用

2019年5月に改定された国際単位系(SI)では,1秒間に流れる電子の数により電流の単位「アンペア」が定義されています.当研究グループでは,超伝導体を用いたSINISターンスタイル素子や,半導体量子ドット素子などを用い,他の研究機関と協力しながら,この新しい定義に基づいた次世代の量子電流標準を実現可能な,単一電子ポンプ素子の研究を行っています.これまでの研究で量子電流の生成実験に成功し,現在電流値の拡大や生成精度の精密評価に取り組んでいます.量子電流標準の実現により,とくに微小電流領域での測定精度が向上し,半導体製造装置の高度化や誘電体材料の評価,高感度センサなどへの応用が期待されています.また,ジョセフソン素子および量子ホール素子と組み合わせて精密な比較測定を行うことで,オームの法則を介した各量子現象の妥当性を検証する実験(量子メトロロジートライアングル)にも取り組んでいます.さらに最近では,表面弾性波を利用した単一電子の移送実験や,他ビットへの不要な干渉を抑制した量子ドット制御による量子コンピュータ開発への貢献などにも取り組んでいます.

量子効果を利用して実現される電気標準
量子効果を利用して実現される電気標準