国立研究開発法人 情報通信研究機構
未来ICT研究所 神戸フロンティア研究センター
超伝導ICT研究室

委員名:寺井弘高

研究概要

当研究室では、窒化物超伝導薄膜・デバイス技術をコアとして、紫外~中赤外に感度を持つ超伝導ナノワイヤ単一光子検出器、テラヘルツ帯の超高感度ヘテロダイン受信機、超高速・低消費電力なディジタル集積回路、超伝導量子ビットの研究開発を推進しています。窒化物超伝導体は、NbやAlといった単元素の超伝導体に比べて高い超伝導転移温度を持ち、より高温、高周波での動作が可能であることに加えて、近年は化学的に安定で低損失な超伝導材料としても注目されており、共振器ベースの検出器、超伝導量子ビットなどにも応用されています。

1超伝導ナノストリップ単一光子検出器
(Superconducting Nanostrip Single-Photon Detector: SNSPD)

超伝導ナノストリップ単一光子検出器(SNSPD)は、紫外から中赤外の広い波長範囲に感度を持ち、高検出効率、低雑音、高計数率、低ジッタを兼ね備えた光子検出器として、量子情報通信分野ですでに広く利用されている。NICTでは、水冷不要、100V電源で駆動可能な0.1 W GM冷凍機に複数のSNSPDを実装したマルチチャンネルSNSPDシステムを開発し、通信波長帯(1550nm)において検出効率90%の検出効率を実現している。さらなる高速・大面積化、光子数識別、単一光子イメージングの実現を目指して、単一磁束量子(SFQ)回路を用いた極低温信号処理も導入しつつ、多ピクセル化に取り組んでいる。

2テラヘルツ帯高感度受信機

NbTiN薄膜は15 Kの臨界温度を持ち、Nbの750 GHzを超える1.2 THzのギャップ周波数を有している。 NICTで作製した高品質NbTiN薄膜は、国立天文台が開発したALMA望遠鏡 Band 10受信機(750 GHz以上の周波数帯域)の同調回路に採用されている。また、1 THz以上のテラヘルツ帯の検出が可能なホットエレクトロンボロメータ(HEB)の開発にも取り組んでおり、電極下部に磁性層を導入する等の新規構造の採用によりIFバンド幅の拡大、低雑音化に成功している。

3ディジタル集積回路

SNSPDの多ピクセル化の実現には、個々のピクセルから信号を取り出すためのケーブル数の削減が必須であり、NICTでは極低温環境で動作するSFQ後段信号処理回路の開発に取り組んでいる。これまでに、SFQ信号処理回路を用いて16ピクセルSNSPDの高速動作や64ピクセルSNSPDアレイによる単一光子イメージングの実証に成功している。また、超伝導量子ビット制御を目的として50 mKの極低温で動作する低臨界電流接合を用いたSFQ回路作製プロセスの開発にも取り組んでいる。

4超伝導量子ビット

NICTではSi基板上にTiN薄膜を配向成長させる薄膜形成技術を有しており、超伝導量子ビットの低損失な電極材料としてQ-LEAPフラグシッププロジェクトで開発を進める超伝導量子コンピュータにも採用されている。また、このTiN薄膜をバッファ層としてNbN/AlN/NbNエピタキシャル接合をSi基板上に作製することが可能で、この接合技術を用いた全窒化物超伝導量子ビットで20μsを超えるコヒーレンス時間の観測に成功している。アルミ接合に替わる新たな材料プラットフォームとしてさらなるコヒーレンス時間の改善を目指した研究開発に取り組んでいる。

NICTのコア技術